中国ビジネスを知る!経済小説『覇権通貨 小説人民元』がイイ!
中国ビジネスに関わっているビジネスパーソンにおススメの経済小説を発見。メガバンクの銀行員と思われる深井律夫著『覇権通貨 小説人民元』。小説のストーリーを楽しみながら、中国ビジネスの罠(ワナ)を疑似体験することができる。
1.『覇権通貨 小説人民元』とは?
中国ビジネスを知るための経済小説
中国ビジネスに関わっている人におススメの経済小説は『覇権通貨 小説人民元』。この経済小説は日中関係、中国ビジネス(特に金融面)、中国の商習慣(含む政治)をストーリーのなかに見事に落とし込んでいる。中国に限らず海外ビジネスを展開するときに重要な為替・通貨(この小説では中国人民元)がキーポイントになっている。
この『覇権通貨 小説人民元』では、グローバル化する中国人民元を題材にして、中国政治や社会の仕組みをおり込んでいる。中国ビジネスに関わっている人も、中国ビジネスや商習慣に関して「なるほど、このような仕組みだったんだ!」と思う点は少なくないはずだ。
2.誤解されている中国人民元の管理変動相場制
なぞの中国人民元の通貨バスケット方式!
中国人民元は2005年7月21日までは米ドルへの固定相場制をとってきたが、通貨バスケット方式の管理変動相場制(管理フロート制)に移行している。ちなみに中国語では通貨バスケット方式のことを「一籃子貨幣方式」という。この中国人民元が採用している管理変動相場制により、中国人民元の1日の変動幅は一定範囲に制限されている。
じつは、中国ビジネスを現地で行っている日本人ビジネスパーソンのなかでも、ほとんどの人は中国人民元の管理変動相場制の仕組みを理解していない。この日本人が理解できていない中国人民元の仕組みや誤解している点を『覇権通貨 小説人民元』のストーリーのなかで見事に指摘している。
日本にはない中国人民元の基準為替レート!?
現在の中国人民元は、あくまでも中国人民銀行(中央銀行)から権限をうけている中国外匯交易中心(中国外貨取引センター)が公表する基準為替レートから最大2%(2005年7月当初は最大0.3%)の範囲で変動可能な仕組み。この基準為替レートは毎営業日9時15分に公表されている。
- 中国外匯交易中心とは?
- 中国外匯交易中心(中国外貨取引センター)とは、中国にある銀行に為替、金利、債権などの銀行間取引市場を提供している機関。中国人民銀行(中央銀行)が主管する事業単位(日本の独立行政法人に相当)。1994年4月設立。毎営業日9時15分に中国人民銀行の基準為替レートを公表している。
日本人が誤解してしまうのは、中国人民元は最大2%の範囲でしか毎日変動できないという抽象的な言葉の定義。たとえ1日の変動範囲は2%以内であっても、中国政府の政策により中国外匯交易中心が公表する基準為替レートを突然、大きく変更してしまうと為替レートは前日から大きく変わってしまうことは中国ビジネスに関わっている人もあまり知らない。
『覇権通貨 小説人民元』では、この「誤解」をうまく取り入れていて、ハッとその「誤解」に気づかされる人も少なくなのではないか(じつは、わたし自身も誤解していた)。中国人民元はあくまでも中国政府による管理変動相場制であり、仕組みが公開されていない通貨バスケット方式であることを忘れてはいけない。
- 中国人民銀行とは?
- 中国人民銀行は中国の中央銀行(紙幣の発行など)。1948年12月に華北銀行、北海銀行、西北農民銀行が合併して河北省石家庄に設立。1949 年2月に北京に移転。1984年に中央銀行の業務のみ従事するため、中央銀行の業務以外を新たに設立された中国工商銀行に移管。
3.著者「深井律夫」とは?
銀行員が書いた中国経済小説
この『覇権通貨 小説人民元』を書いているのは深井律夫さん。インターネットの情報を見るかぎり、みずほ銀行(日本興業銀行出身)の銀行員のようだ。兵庫県出身の1966年生まれ(現在は49歳)、大阪外国語大学中国語学科卒業。上海の名門大学である復旦大学留学。いまも銀行員として働いているのか、すでに退職しているのかは不明。そもそも、この「深井律夫」という名前も本名かペンネームかどうかわからない。
著者にとって『覇権通貨 小説人民元』は現在出版されている最新作(3作目)。1作目の『連戦連敗』(現在のタイトルは『巨大市場」)は2010年11月に出版されていて、これまで約4年間で3冊を出版している。この出版ペースを考えると、銀行員を継続しながら兼業として小説家をしている可能性は少なくないだろう。これから読者対象をうまく広げることができれば、『半沢直樹」で有名な池井戸潤氏のような大物作家になる可能性もあるだろう。
前作の『巨大市場』
今回の『覇権通貨 小説人民元』を読むまえに、『巨大市場』という前作から読むことを強くおススメしたい。なぜなら、『覇権通貨 小説人民元』は『巨大市場」の続きでもあるからだ。
すでに著者が書いた3作とも読破してしまっていて、はやく次回作の発表を期待したい。とにかく出版スピードは東野圭吾氏くらいに上がらないだろうか。(了)