中国の大学専攻、希望していない学科に回されるのか?
日本語を流ちょうに話す中国人に、大学時代に日本語を専攻した理由を聞くと「他の学科を希望していたけど日本語学科に回されてしまった」という人がいる。中国の大学入試では希望していない学科に回されることは本当にあるのだろうか?
1.中国では勝手に専攻を決められるのか?
意図せず日本語専攻に回されることはあるのか?
日本通の年配の中国人が日本語を勉強しはじめた理由を「大学受験の結果、当時は志望していなかった日本語学科に意図せず回されて、泣く泣く日本語を勉強することになった」と懐かしそうに数十年前を振りかえる。中国に関する日本語の書籍や雑誌で何度かこのような話を目にしたことがある。
中国の大学受験制度では、ほんとうに希望していない専攻(学科)に回されることは起こるのだろうか?日本の大学受験であれば、基本的に志望していない学部に意図せず回されることはないだろう。中国の大学受験制度は数十年前と現在では大きく変わっているかもしれないが、現在の仕組みはどうなっているのだろうか?
2.中国の高考とは?
毎年6月に行われている高考
中国人が中国の大学に入学するには、毎年6月に行われている高考と呼ばれる普通高等学校招生全国統一考試(以下、高考)を受験する必要がある。ほかにも大学に入学する方法はあるが、高考が一般的な入学ルートだ。日本の大学入試センター試験に相当する試験だ。
高考は、毎年6月7日、8日(一部地域は3日間)に行われている。教育部(文部科学省に相当)が高考を主管し、試験内容は各省(自治区、直轄市)でことなる。
どのように大学に志願するのか?
中国の高考では、具体的にどのように大学や専攻(学科)を志願するのだろうか?各省(自治区、直轄市)で大学の志願方法はすこし異なるが、基本的な仕組みはほとんど同じ。上海市では6月の本番試験のまえに、大学の志願届けを提出しなければならない。志願届けには専攻(学科)を明記する。
上海市では受験まえに希望の大学や学科を志願する。高考を受験するまえで点数が確定していないのに、どうやって志願する大学や専攻(学科)を決めているのだろうか?高考の受験生は、自分がどのくらいの点数を取れるか事前の模擬試験などで予想している。
ほかの省では、高考の点数結果が発表されてから志願届けを提出する地域もある。中国の大学の合格枠は、全国31の省(自治区、直轄市)に割り当てられており、中国の受験生は同じ地域(試験単位)で競争している。
地域によって志願方法や試験内容にちがいがあっても、合格枠を争う同じ地域(試験単位)の条件がおなじなら、受験生に不平等は生じない。
3.どのように大学の専攻は決まるのか?
中国の大学はランク分けされている!
日本人にあまり知られていないが、中国の高考は大学ごとにランクを分けている。日本人が耳にしたことのある一流大学の北京大学、清華大学、中国人民大学、上海交通大学、上海財経大学、武漢大学などは重点大学と呼ばれ、第一批次本科と呼ばれる大学ランクに属している。
一本大学または一本線大学ともよばれる。そのつぎに第二批次本科(二本大学)、第三批次本科(三本大学)と大学ランクは分かれている。
この大学のランクはどのように使われるのか?各省(自治区、直轄市)は、高考の試験結果で一本大学の足切り点数、二本大学の足切り点数を設定している。一本大学の足切り点数をこえていない受験生は、一本大学に属する大学を志願できない。
具体的な大学・専攻の志望方法は?
上海の受験生は、一本大学は4校、二本大学は6校まで志願することができる。上海は高考を受験する前に志願届けを提出するので、ほとんどの学生が志願枠を埋めることになる。
一本大学の4校は、第一志望から第四志望まで順序づけを行う。二本大学も同様に順序づけを行う。それぞれの志願する大学(一本・二本大学あわせて10校)は、順序づけした6つの専攻(学科)を記入する。
この専攻(学科)を書くところに、志願する専攻(学科)以外でも合格したらかならず入学するという意思表示をおこなう「専攻の調整に従います(中文:服従専業調済)」を記入するところがある。
これが日本語学科を希望していないひとが日本語学科に通うことになる要因だ。記入しなかった場合は、志願する専攻(学科)以外に回されることはなくなるが、合格ライン近くにいる人は合格できる可能性が減ってしまう。
28省(自治区、直轄市)で採用されている平行志願とは?
中国の高考は、31ある省(自治区、直轄市)のうち28省(同)で平行志願という選考方法を採用している。平行志願とはどのような方法なのか?
平行志願は、受験生の志願順序を考慮しつつ、全体の合格率を向上させる選考方法。平行志願により、一本大学の足切り点数を超えた受験生は、90%以上が一本大学に合格しているといわれている。上海市の高考などの公式の進学試験を担当している上海市教育考試院によると、つぎのような選考をおこなっている。
- 上海市教育考試院は高考の総合得点を文系と理系に分けて、総合得点で順序づけをしていく。つまり、すべての受験生に試験結果で順位をつけていく。
- 上海市教育考試院は総合得点が同じ場合、科目の点数で順序を決める。文系の場合は、国語、外国語、数学の順番で単一科目の点数をくらべる。理系の場合は、数学、外国語、国語の順番でくらべる。
- 大学は自校を志願していて、高考の点数上位の受験生から選考するための档案(ダンアン)と呼ばれる受験資料を入手する。各大学は、採用予定人数100に対して、入手できる受験資料は最大105と決められている。
- 受験生は第一志望の学校に受験資料を選ばれなかった場合、第二志望、第三志望と選考されていく。
- 大学は、受験資料に書かれた6つの専攻(学科)を参考に、上位点数の志願者から各専攻(学科)の合格者を決めていく。大学は、受験生が自校を第一志望にしていたのか、それとも第二志望だったのか参考にせず、平等に点数で合否を決めていく。そのため、大学の選考時には志願順位が平行(平等)という意味で、平行志願とよばれている。
- 大学は、選考した受験資料が6つの志願する専攻(学科)にいずれも合格しなかった場合、「専攻の調整に従います(中文:服従専業調済)」を選択しているか確認する。選択していない場合は不合格が確定する。選択している場合、自校のなかの不人気の専攻(学科)に回して選考する。専攻(学科)によっては、採用予定人数100に対して、志願者が90という場合で、定員割れの10を埋めるために専攻調整をおこなう。
この選考方法は、希望していなかった専攻(学科)に合格してしまう受験生が発生する。ただ、どうしても希望する専攻(学科)以外にいきたくない場合は、「専攻の調整に従います(中文:服従専業調済)」に同意しなければよい。
受験生はこれらの選考プロセスの自分の選考状況や不合格の理由を「陽光高考」という教育部が運営するホームページで確認することができる。高考は基本的に点数で合否を判定している。高考は公平性と透明性をもった試験である。(了)