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中国のヤクルト「益力多」と「養楽多」、名称の違いは?

上海のローソンなどで目にするヤクルト。上海で販売されているヤクルトは「養楽多(养乐多)」と名付けられているが、広東省にいくと「益力多」という別の名称で販売されている。なぜ中国本土で同じ製品に2つの名称があるのだろうか?

1.中国本土の2つのヤクルト

「益力多」と「養楽多」、どちらがホンモノ?

乳酸飲料大手のヤクルトは、中国本土で大々的に乳酸菌飲料の主力製品ヤクルトを販売している。大型スーパーやコンビニエンスストアでは日本人馴染みのヤクルトが販売されている。上海市内で見かけるヤクルトには「養楽多(养乐多)」という名称であるが、広州市内で販売されているヤクルトは「益力多」という名称になっている。

中国本土で販売されているヤクルトになぜ2つの名称があるのだろうか?中国のユーザーも混乱しているようで、中国のインターネット上の掲示板には「益力多と養楽多のどちらがホンモノなのか?」「なぜ名称が違うのか?」などと多数投稿されている。中国のインターネット掲示板に、この名称の違いに対する明確な回答は見つからなかった。

(写真1)上海市内のファミリーマートで販売されている養楽多(5個入り12.5元)

(写真1)上海市内のファミリーマートで販売されている養楽多(5個入り12.5元)

2.益力多と養楽多、2つのホームページ

なぜ2つの名称があるのか?なにか背景が?

中国のヤクルトは「益力多」と「養楽多」の2つの公式ホームページを開設していることも、中国人をより混乱させている理由のひとつだろう。広東省などの珠江デルタ地域で「益力多」を展開しているのは広州益力多乳品有限公司www.yakult-gz.com.cn/)というヤクルトの子会社。

もうひとつの「養楽多」のホームページを運営しているのは、養楽多(中国)投資有限公司www.yakult.com.cn/)という上海にあるヤクルト子会社。ホームページのURLも類似している。同じ日本のヤクルトの子会社が同じ製品を別々の名称で販売しているので消費者は混乱してしまう。

中国では2013年から「王老吉」という涼茶(漢方薬の入った植物飲料)という飲料の商標権(商品名)が問題になり、あたらしく「加多宝」という別の名称の同じ製品が生まれたこともある。日本人から見ても、ヤクルトはなぜ同じ製品に2つの名称をつけているのか疑問をもってしまう。

(写真2)広州市内のコンビニで販売されている益力多(5個入り10.5元)

(写真2)広州市内のコンビニで販売されている益力多(5個入り10.5元)

3.これが2つある名称の理由(かも)

中国語の発音の違いと市場進出のタイミングか?

「益力多」にしろ、「養楽多」にしろ、どちらもホームページ上で中国本土に存在する2つの名称の違いについて解説していない。いろいろ調べた結果、この名称の違いは中国語の発音に起因しているようだ。

まずヤクルトは1964年に台湾に進出している。台湾は台湾語もあるものの普通語(北京語)が公用語とされている。この普通語の発音からヤクルトを翻訳して「養楽多」と命名された。

ヤクルトは台湾に進出してから5年後の1969年に香港にも進出している。この時にヤクルトという名称を考えたときに、広東語の発音を参考にして「益力多」と命名している。同じヤクルトという製品であるものの、中国語圏という大きな地域に「益力多」と「養楽多」の2つの製品名が生まれてしまった。

中国本土への進出時に悩んだだろう

ヤクルトは2001年に広州に製造会社(広州益力多乳品有限公司)を設立している。おそらく、2001年より前から広東省(広州市や深セン市など)には香港または日本からヤクルトが入ってきていて、広東省では「ヤクルト飲料=益力多」という認識になっていたのではないか。そのため、広州市に設立した会社名や製品名称は、すでに広東省の消費者に認識されている「益力多」にした、と考えてしまう。

いっぽう、2003年から上海などの他の地域で販売されたヤクルトは、普通語(北京語)で翻訳された「養楽多」という製品名称で展開した。2004年には上海益力多乳品有限公司(上海市嘉定区)(「養楽多」ではなく、「益力多」)という名称で設立するものの、2005年には養楽多(中国)投資有限公司(上海市浦東新区)という会社を上海に設立している。

(写真3)いまでも「養楽多」の製造会社は上海益力多乳品有限公司になっている

(写真3)いまでも「養楽多」の製造会社は上海益力多乳品有限公司になっている

日経新聞にも取り上げられたヤクルト中国

日本経済新聞(2014年7月10日付)の「ヤクルト中国ルポ 駆ける『益力多小姐』」では、ヤクルトレディについて取り上げている。この記事でも「養楽多」と「益力多」の2つの商品名について書かれている。

この記事を読むと単純な発音の違いで2つの商品名があると読めてしまうが、企業としては消費者の商品認知度や将来的なブランド名の確立などでかなり悩んだことだろう。将来的なブランド名の統一も検討しているかもしれない。

日本経済新聞電子版(2014年7月10日付)

ヤクルト本社は2002年に広州で中国事業を開始。その後、上海や北京、天津へと進出した。「益力多」は広東省や香港でのヤクルトの中国語名で、上海より北では方言の違いから「養楽多」の名称を使う。

結果として「益力多」と「養楽多」の共存

いつまで「益力多」と「養楽多」と2つのブランド名を続けていくのだろうか。そう遠くないときに、どちらかのブランド名が変更されることもあるかもしれない。

(写真4)路上で販売するヤクルトレディ、1個3元(約60円)とけっこう高い

(写真4)路上で販売するヤクルトレディ、1個3元(約60円)とけっこう高い

イオンは主力の総合スーパーブランドだったジャスコの店舗名称を変更した。中国では2013年3月1日に吉之島(ジャスコ)から永旺(イオン)に名称変更している。ヤクルトの販売が好調であるほど、経営陣の名称変更に対する決断の迷いは大きくなるだろう。(了)

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