中国の大卒が戸籍移動に必要な「報到証」とは何か?
中国には日本にはない社会の仕組みが存在する。そのうちの一つは戸籍の管理だ。日本の戸籍も本籍地が記載されているが、日本では自由に本籍地(戸籍の登録地)を変更できる。中国では戸籍の変更(移動)はいろいろな制約をうける。
1.中国の報到証とは?
就職したら必要になる報到証とは何か?
中国の報到証(バオダオジョン)とよばれる名前の証明書について耳にしたことはあるだろうか?中国人のなかでも報到証についてよく知らないひとも多いといわれているが、計画経済時代からのこっている証明書のひとつ。
中国の報到証には、大学生(含む大学専科)が取得できる「全国普通高等学校本専科卒業生就業報到証」と、大学院生が取得できる「全国卒業生研究生報到証」の2種類がある。
大学生も中国の高考とよばれる大学入試の方法で入学したものだけが入手することができる。成人高考とよばれる社会人入試や通信制の大学を卒業しても報到証は入手できない。
- 中国の高考という大学入試
- 高考は毎年6月に行われている中国の大学入試。正式名称は普通高等学校招生全国統一考試という。受験科目は国語、数学、外国語、総合科目(または選択科目)の4科目が多い。地域によって配点や科目に違いがある。
2.報到証はどんな役割をするのか?
戸籍の移動に必要な報到証
この報到証は中国人にとって、どのような意味があるのだろうか?ひとつは、大学卒業生の戸籍の移動に必要になる。中国では戸籍の移動が制限されているが、大学卒であれば、北京市や上海市などの一部のポイント制を導入している超大都市(多くは省都)を除いて、就職先のある都市に戸籍を移すことができる。
浙江省杭州市ではいくつかの戸籍転入の方法のなかで、つぎのような新卒に対する政策を打ち出している。
各類全日制統招応届卒業生(各専門の全日制の高考で入学した新卒者)
大学院生は戸籍を転入したあとに就業することができる。大学本科と大学専科卒は、杭州市で社会保険を納付する単位(職場)があり、報到証に書かれている単位(職場)と一致していなければならない。
この大学新卒者が戸籍を移すとき、報到証、戸籍遷移証、大学卒業証書、就業協議書が求められる。そもそも中国で大学卒というと、2000年ごろまでは限られたエリートという存在だった。しかし、1999年の教育改革により大学生の募集人数が大幅に増加したことにより、現在では卒業したあとの就職難が叫ばれている。
政府関連の機関で必要な「幹部」身分
あまり知られていないが中国では農民、工人(労働者)、幹部という3つの身分にわかれている。中国人が民間企業ではたらく場合はとくに意味がない「幹部」という身分。政府関連の機関ではたらく場合は「幹部」という身分が大きな役割をはたす。
この「幹部」身分というと、日本人は高い役職のひとをイメージするかもしれない。中国の「幹部」身分は報到証を取得した大卒者なら、だれでも申請することができる。たとえ民間企業に就職する人も、報到証をもっているなら「幹部」身分を取得することができる。
どのようにして「幹部」身分を取得するのか?
どのようにして「幹部」身分を取得するのか?中国人は戸籍とは別に人事档案とよばれる人事ファイルを一人ひとり保有している。政府関連の機関に就職する場合は、その機関自身が人事档案を保管することができ、その人事档案のなかに報到証も保管される。そして、就職してから1年間の見習い期間を経て、「幹部」身分を申請して取得することができる。
一方で民間企業は人事档案を保管することができない。そのため、政府から人事档案を保管することの認可を得ている人材市場や人材服務中心とよばれる機関に、人事档案を預けることになる。この場合も1年後に「幹部」身分を申請することができる。
この「幹部」身分の大きな役割は、社会人年数(工齢)の確定と行政ランク(職称)の取得である。民間企業で働いていたひとが政府関連の機関に転職する場合、「幹部」身分による社会人年数(工齢)や行政ランク(職称)によりスタート時の給料に影響する。4年制大学卒で社会人年数1年を過ぎたものは、助理級という行政ランクを得ることができる。
3.いつ報到証は入手できるのか?
就職先が決まっている場合
大学生はいつ報到証を入手することができるのか?就職するかどうかにより取得方法がことなる。就職先が見つかった場合は、職業協議書とよばれる書類に大学生本人、就職先、大学の3者が捺印をおこなう。そのため、この職業協議書は三方協議書ともよばれる。
この職業協議書と卒業証書をもって、大学にある職業指導部門で報到証(2枚)を入手することができる。この報到証は2枚あり、1枚を就職先に提出する。もう1枚は人事档案に保管される。
就職先が決まっていない場合
就職先が見つからない、あるいは当面は就職しない場合はどうなるのだろうか?大学は卒業から最長2年間は報到証を発行することができるため、2年以内に就職先を見つければ「幹部」身分を取得することができる。(了)